コラム

これからの中山間地域での地域づくりに求められること

12月14日(木)長野県庁で、第2回中山間地域の住民力・地域力による社会的事業支援研究会」が開催されました。
ここで委員として、エンパブリック代表の広石が、これからの地域づくりの考え方を紹介しました。

 

長野県職員 木下巨一さんのfacebook投稿に掲載されたレポートをご紹介します。。

 


○ 大事なのは一歩踏み出しやすくなる「環境づくり」

良いビジネスプランが良い事業であるとは限りません。むしろ地域や周りの人たちと良い関係づくりが往々にして事業の成功に結びつきます。。地域の課題解決をしてくれる優秀な人材を探すのではなく、新しい人たちが踏み出しやすい環境をつくることが大事です。

文京区で「文京ソーシャルイノベーション・プラットホーム」という事業づくりのお手伝いをしてきました。4年間ですでに70もの課題解決プロジェクトが立ち上がっています。地域には、地域の課題解決のために動き出したい人たちは多数存在しています。その人たちが動き出すことができる環境をつくることが行政の仕事です。それは「参加したい気持ちを守り立てる」役割です。
シリコンバレーに人材が集まるのは、そこに行けば自分の考え方を聞いてくれる人たちがいるから。周りの環境を整えれば、起業家の人たちがまちに来ます。環境づくりとは、お金だけではありません。起業家の人たちを厚く守り立てる人間関係、つまり社会関係資本などを整えることも大切です。

○ 6つの資本の視点から、必要な環境づくりを考える

今は過去最高益を記録した企業が直後に経営の危機を迎えました。つまり財務資本の視点だけで会社の経営を見ることの限界です。世界的には「財務」「製造」「人的」「知的」「社会関係」「自然」という6つの資本の視点から統合的に経営の状況を評価する、統合報告のフレームワークが広がっています。統合報告の発行は、日本においても500社以上が導入しています。

企業経営を、例えば人的資本の側面からは、「経験のある人が意欲を持って働いているか」、知的資本の側面からは「社員の持つ職人的な技術が伝承されているか」という評価を行います。社会関係資本の側面からは、ある会社が倒産しそうになった時、財務的には大きく傷んだけれども、会社の存続を希望する関係企業が存在するなど、サポートする人や組織の存在なども評価のポイントになります。自然資本の側面からは、コカコーラの取組む、消費した水の分だけの森林を再現する「ウォーターニュートラリティ」のような取組みも評価されます。

○ 地域づくりにこそ応用できる、6つの資本の視点

企業経営以上に、地域づくりにも6つの資本による分析視点は役立ちます。
製造資本の側面からは、たとえば廃止となった工場跡地や空き家を地域のマイナス要素ととらえるのではなく、地域づくりのために活用できる場所ととらえることで価値が生まれます。人や組織のつながりを表す社会関係資本、地域に残る自然・文化・歴史などを表す自然資本など、6つの資本の視点から、地域には多彩な資本が存在します。けれどもこれらは存在しているだけではなく、使われないと資本になりません。

どの地域にもいいものはたくさんあります。しかしそれらが評価されていなかったり活かされていないことが課題です。地域にあるものを整えて、資本としての価値が見えてくるようにすることが、環境を整えるということです。

○ 環境を整えれば人が集まる、御田町の事例に学ぶ

チームで視察に訪れた御田町は、2001年には商店街のうち1/3が空き店舗であった状態から、現在はすべての店舗が埋まり、空き待ちのある人もいる状態です。空き店舗の存在を、さみしい町とみることから、可能性のある町ととらえ、売り上げだけでなく、町に若い人たちが店を出し、関係性の厚い良質な暮らしが維持できる、「モノ」だけでなく「コト」を売る町としてとらえたことで現在の状況に結びついています。

○ 大事なのは「能力」と「権限」の視点

御田町の取組みは、一軒の古民家を、関わる人たちが手作りで再生したことから始まります。これは自分たちで変えることができるんだという体験を共有したということです。地域づくりを考えるとき「能力」と「権限」という視点を持つことが大切です。町には「能力」を持つ人たちはたくさんいるはずです。しかしその人たちには「権限」がありません。

○ 「あきらめ」から「権限」へ

「あきらめ」から「権限」へ。世界的にトレンドとなりつつある考え方です。これはこの町はどうしようもない、あるいは私にはかかわることができないという「あきらめ」から、この町は自分たちの力で変えられるという「権限」と受け止めていく変化を意味します。御田町の発展のカギを握ってきたのは商店街のおかみさん会の皆さんです。彼女たちはこれまで地域づくりのプレーヤーではありませんでした。男性中心のこれまでは、計画を作るまでに注力しすぎそこで止まっていましたが、おかみさん会は行動から始まります。

御田町では大勢の若いものづくり職人たちが店を構えていますが、彼らを商店街で受け入れた時から、おかみさん会は全面的に応援するモードになりました。例えば、お店の開店日に合わせて口コミで自分の店のお客さんたちに開店のことを伝えていきます。またお店にお客が入っているか心配しながら、食べ物を差し入れてくれます。若い職人たちは、こういうおかみさんたちの存在によって、この町でやっていく安心感を受け取ります。また、彼らの作る商品についても、自分自身が使う側の目線に立ち意見することで、売れる商品に帰るサポートにつなげています。

つまり、おかみさんたちは職人たちとの関係性の中で、彼らの成功に向けてサポートしてくれる存在です。おかみさん会にものづくり職人を支える機会が与えられたことは、御田町は「あきらめ」から「権限」に移行した状態です。

○ 先進事例をどのように再現していくか

商店街とはどのような場所なのでしょうか。モノを売る場所であれば、イオンモールなどの大型商業施設や、ネットショッピンクと変わりはありません。御田町の場合は、それだけではなく賑わいや助け合いなどの関係づくり、そしてこの場所でしかないユニークなもの、すなわちコトも売っています。こういうお金側面ではないストックを大切にすることが、「上質な暮らし」を実現していきます。こういう「上質な暮らし」を再現するための分析を6つの資本の視点から行ってみます。

① 御田町にはおかみさん会という、商売人として、新しく店を抱える若い職人たちの受入れに際して目利きをしてくれる「知的資本」がありました。

② 商売を営んできた人たちがたくさんいるということは、「人的資本」でもあります。

③ 諏訪大社の参道で、眼前に諏訪湖を抱えるという土地柄は、商店街のイメージをつくる「自然資本」です

④ 商店同士のつながりや、商店主やおかみさんたちと職人たちとの信頼関係、そして長を作らない組織運営は「社会関係資本」です。

⑤ そして町の人たちが皆で手作りでリフォームした古民家は「製造資本」です。

⑥ これら「財務資本」以外の資本を、町が活性化してきた要素として分析することで、他の事例の際現に応用することが可能となります。

○ 行政に求められる「融資的視点」からの脱却

これまでの行政は、「補助金」を組織に渡して、その組織が地域活性化のためにそのお金を活かす、という仕組みの中で地域と関わってきました。この時補助金を渡す側の行政の仕事は、補助金を受け取る相手組織の信用です。つまり相手が、そのお金を管理執行できる相手として適正かという「融資的視点」に基づいています。
しかしこれからは、「補助金」という「融資的視点」だけでなく、6つの資本の視点から、基礎自治体と連携しながらプロセス全体をサポートする投資的な仕事の仕方が求められます。

 

 

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