みんなの場づくり

「あそび」を通じたまち育て ~ドイツのボードゲームによる場づくり

NPO団体わくラボの代表、安藤哲也と申します。当団体は「子どもから大人までわくわくできるあそびを提供する」を目標に活動しており、今回は「場づくり」という視点から我々の活動を紹介します。

■取組みの目的
その前に。私がこの活動を通して解決していきたい社会課題が大きく2点あります。
1点目が、コミュニティの希薄化。これはありとあらゆるところで言われていることです。これを問題と捉えるかは人それぞれかもしれませんが、少なくとも私は人口減少時代を迎える上でコミュニティ問題は重要な課題だと認識しています。
2点目が、大人になることへのネガティブシンドロームです。「就職したくない」「学生のままでいたい」と考える若者が増加していることです。子どもが夢を持てる社会をつくるためには、子どもが「こうなりたい」と思える大人をたくさんつくることが必要だと考えています。楽しそうにイキイキと生きている大人がたくさんいれば、子どもも「早く大人になりたい」と思うのではないでしょうか。そのためには「大人こそあそぶべき」「大人こそわくわくすべき」と考えています。

こうした課題を解決するために、NPO団体を組織し活動を始めました。

■ドイツのボードゲーム
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当団体は「あそび」を伝える活動をしていますが、その中で大きなウエイトを占めているのが「ドイツのボードゲーム」ですので説明させていただきます。
皆さんはドイツのボードゲームをご存知でしょうか? 日本でテレビゲームが盛んなように、ドイツ(を筆頭にヨーロッパの数か国)ではボードゲームが盛んです。

「ボードゲーム」と聞くと何を想像されますか? 「人生ゲーム」という回答が最も多いかと思います。次いで「オセロ」「モノポリー」でしょうか。ボード(盤)を拡げてあそぶものを総称してボードゲームと呼ぶのですが、ドイツのボードゲームというと少々特殊です。
ドイツのボードゲームは日本のスゴロクなどとは異なり、「運」だけで勝負は決まりません。また、オセロ・将棋・チェス・囲碁のように、「思考」だけでも勝負は決まりません。ドイツのボードゲームは「運」と「思考」が程よくブレンドされ、大人と子どもが真剣に勝負しても対等にあそべるようなゲームバランスになっている点が最大の特徴です。
このボードゲームですが非常に多種多様なゲームが存在します。じっくりと考え悩みながら行動を選択するもの、反射神経を問われるもの、記憶力が必要なもの、お互いの感性を探り合うもの等々です。また、デザインにもこだわりがあり美しい水彩画のボードや可愛らしい木彫りのコマなど眺めているだけでも飽きません。

ボードゲームは大人同士であそんでも非常に盛り上がります。後述のボードゲームカフェやボードゲームリアカーなど、初対面の方同士でもすぐに打ち解け楽しくあそんでもらうことができます。特に、子どもの場合は「楽しい」だけでなく、あそびながら様々な能力が育まれることが期待されます。例えば、論理的思考、数学的思考、思考の瞬発力、暗記力、感性、コミュニケーション力など。そして、ボードゲームによって育まれる最も大切な能力は「社会性」です。ボードゲームであそぶためには、ルールを守る、人の説明を聞く、順番を待つ、人の邪魔をしない等、社会で生きていくうえで必要なものが詰まっています。これらの要素は、一人であそぶことができ、簡単にリセットボタンを押すことができるTVゲームでは育まれないものだと思います。

私はこのボードゲームに出会い本当に素晴らしい文化だと感じました。そしてこの素晴らしい文化を日本にもっと伝えたいと考えおもちゃコンサルタントの資格を取りました。その後、ボードゲームは「場づくり」に非常に有用であると考え、ボードゲームを活用した様々な活動を行うようになりました。具体的な活動内容を簡単に紹介します。

■活動の紹介
(1)ボードゲームカフェ
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川崎市中原区にあるコミュニティカフェ「メサ・グランデ」にてボードゲームカフェを開催しています。平日はターゲットを大人とし水曜日と金曜日の夜に開催しています。休日は6月から開催予定ですが、ターゲットを子どもから大人までとし親子での参加も大歓迎です。
お店には約50個程度のボードゲームが用意してあり、一人での参加もグループでの参加も可能です。「ボードゲームであそぶ」という共通の目的があるため、自然と初対面の方と一緒にあそぶことができます。ルールの説明や、テーブル誘導は我々スタッフが行い、楽しんでもらえるよう配慮しています。
これは先に挙げたとおり、ボードゲームの魅力を伝えたいという目的もありますし、知らない人同士が自然な形で知り合うことができる「場づくり」を目指して行っています。
◆ボードゲームカフェ: http://wakulab.net/2015/04/24/boardgamecafe%E3%80%8D

(2)ボードゲームリアカー
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池袋駅東口、グリーン大通りで開催されているGreen Blvd Marketというマルシェイベントに出店しています。写真のとおり、リアカーでボードゲームの販売や、路上でボードゲームの体験プレイコーナーを設けています。
このイベントではマルシェにあそびに来る方や通りすがりの方に声をかけ、ボードゲームをあそんでもらいます。現状はほとんどの方がボードゲームを知らない状況ですが、一度あそび始めると本当に夢中になってあそんでいきます。路上でも面白いものがあれば簡単に「場が生まれる」と実感しています。
なお、マルシェイベント自体は5~6月の毎週土日に開催しており、我々わくラボの今後の出店予定日は6/7(日)、6/14(日)、6/20(土)、6/27(土)となっています。
◆Green Blvd Market: http://www.greenbmarket.com

(3)小学生へのボードゲームの特別授業
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川崎市の寺子屋事業の一環として、某小学校にてボードゲームの特別授業を行いました。小学生が対象ですが、親御さんも何組か参加され楽しくあそぶことができました。
ボードゲームが子どもの成長を促すということは上述のとおりですが、この特別授業は学年の制約がないため学年を超えた関係性を育むことができます。昨今は地域の中で子ども同士があそぶ機会(場所)が減少しているため、このボードゲームの特別授業を通じて「ナナメの関係を育む場」が作れればと考えています。この特別授業は今年度も継続して実施する予定です。

(4)おもちゃの広場
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川崎市の枡形こども文化センターにて定期的におもちゃの広場を開催しています。おもちゃコンサルタントの総本山である日本グッド・トイ委員会の協力を得て、主に海外製の面白いおもちゃをたくさん用意しています。自前のボードゲームも持参し、乳幼児から大人までそれぞれ「楽しくあそべる場づくり」を行っています。この広場では子育て中のママさん、地域の小学生や中学生、地元の高齢者など多様な方々が集い、あそびを通じて自然とコミュニケーションが図られています。
理想としては、異なる幼稚園・保育園のママさん同士のコミュニケーションや、そういった若い世代に高齢者の方から子育てに関するアドバイスなどがされるような場に発展すれば素敵だと考えていますが、それをこちらから強制するつもりはありません。この場の成長は地域の方々に委ねており、いずれ地域の中で三世代交流が生まれれば良いと考えています。

■おわりに
「まちづくり」という言葉がいたるところで溢れています。しかし、私は「まち」に何かを新たに「つくる」時代は終わったと感じています。今後は「まち」は今ある人やものを「育てる」時代だと思います。まちには、住む人、働く人、通う人、あそびに来る人、色々な人が既に溢れていますし、使われていない公共空間、公共施設、空き店舗など色々なものも溢れています。こうした人やものを繋ぐきっかけづくり、すなわち「場づくり」をすることがまちを育てることになると思います。そして「あそび」にはその可能性があると信じています。
最後に。あそびには3つの「間」が必要と言われます。

  • 仲間
  • 空間
  • 時間

です。
しかし、TVゲームが生まれ、あそぶための「空間」を不要にしました。
そして現代は、オンラインゲームが隆盛を誇り、「仲間」すら不要にしました。「時間」さえあればあそび続けられる状態です。少子高齢化・共働きの進む日本では最も理に適っているのかもしれません。しかし、人間として大切な部分が無くなっているように感じます。
誰か(仲間)と、どこか(空間)に集い、一緒に過ごす(時間)。これは人間として基本的な行動であり、とても大切で、幸せなことです。そうした場をつくり続けることを目標にこれからも活動を続けていきたいと思います。

◆NPO団体わくラボ http://wakulab.net

About the author

安藤 哲也(川崎市)

NPO団体わくラボ代表/コミュニティデザイナー/おもちゃコンサルタント/明治大学兼任講師(登戸探求プロジェクト)

千葉県木更津市出身。農家の長男。大学時代からのまちづくり活動や都市計画コンサルタントとしての業務を通し、まちはつくるものではなく、育てるものという考えを持つようになる。趣味としてあそんでいたボードゲームが人を繋ぐツールに成り得ると考えNPO団体わくラボを組織する。現在はボードゲームに偏っているが、それ以外にも多様なあそびを提供できる組織にする予定。子どもから大人・シニアまでがわくわくして生きられる社会をつくりたい。