みんなの場づくり

対話で学ぶ。「新潟水俣病」と向き合う公害学習プログラム

はじめまして。新潟県三条市在住で、ワークショップデザイナー/ファシリテーターとして活動している石本貴之です。
本業は、認定NPO法人新潟NPO協会という、「中間支援NPO」で行政と市民等が協働を生み出すための対話の場づくりなどを行っています。

今回は、本業ではなく個人として関わっている場づくりについてご紹介します。

公害学習にこそ、対話を。

みなさんは、四大公害病をすべて言うことができるでしょうか?
意外と最後まで出てこないのが、「新潟水俣病」かもしれません。

「新潟水俣病」は、旧昭和電工(株)鹿瀬工場が、阿賀野川に流した排水中の有機水銀が原因となって発生した公害で、阿賀野川流域の住民数千人が被害に遭いました。

今年の5月31日に、公式確認から50年の節目を迎ましたが、現在も問題は続いています。

この「新潟水俣病」をテーマとして、流域の地域再生等に取り組む「一般社団法人あがのがわ環境学舎」に協力して、公害の教訓を未来に活かす、公害学習プログラムづくりを進めています。

あがのがわ環境学舎は、新潟水俣病が発生した阿賀野川流域の地域再生を目指す「阿賀野川流域地域フィールドミュージアム事業」(※略称・FM事業)を新潟県が事業主体となって官民協働で展開する中で、民間側の団体とした誕生した流域の中間コーディネート組織です。ロバダン(炉端談義)と呼ぶ少人数の寄り合いを200回以上開催し、関係者との関係性を構築しながら、地域に眠る商品の原石を掘り起し、「ミニ蒸しかまど」や「泥漬け」といった商品開発につなげてきました。

また、平成23年度からは、小・中学生や大学生、地域住民を対象にした、影だけではなく光の側面も重視した「新潟水俣病」の公害学習プログラムの提供を続けてきました。そうした中で、昭和電工(株)などとの関係性も構築することができ、昨年度からはプログラム実施時に、工場内に入る許可を得られるようになりました。

こうした背景を踏まえて、公害学習プログラムを通じて、より参加者の学びを深めるための運営上の課題が見えてきました。そこで、私がワークショップデザインという形で協力をさせていただくことになりました。

ワークショップの手法を取り入れるに際して、「対話する」というプロセスを重視するようにしました。それは、どうしても「公害」に対して、何か発言することは憚られる雰囲気があるためです。ただ、未来に目を向けていくには、オープンに「対話する」ことは欠かせません。公害学習にこそ、対話が必要なのではないかと思っています。

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「新潟水俣病」の光と影を辿る

公害問題では、被害者の苦しみや裁判闘争の歴史などの、いわゆる影の側面に焦点が当たることが多いです。しかし、一方で、昭和電工(株)は3000人もの雇用を生み出し、地域経済の核となっていた企業であり、鹿瀬の住民の生活を豊かにしてきたという光の側面もあります。

どちらか一方だけでなく、光と影の両方について迫ることで、当時の社会状況なども含めて、よりリアルな「新潟水俣病」に触れることができると考えています。
知っているようで知らなかったことを学ぶことを通して、参加者には大きな気づきが生まれます。

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プログラムでは、最初に「新潟水俣病の発生経緯」を講義した後、現地視察を行います。かつて社員が住んでいたハーモニカ長屋と呼ばれる社宅が建っていた跡地(現在はグランドやテニスコート)や、有機水銀が検出された排水口を巡ります。また、新潟昭和(株)の協力の下、工場の敷地内に入り、厳しい基準を設けた現在の排水処理の取り組みを伺います。

(なお、この公害学習プログラムづくりには、昭和電工(株)またそのグループ会社で、現在もかつての鹿瀬工場で操業している新潟昭和(株)にも協力してもらっています。)

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「正解のない問い」を考えることが学びを後押しする

講義と現地視察を終えた後、参加者の胸には様々な思いが巡っている状態になります。
ここから、ようやく対話の時間をとります。

対話の場のコンセプトは、「正解のない問いを考える」こととしています。
あえてこのコンセプトにしたのは、公害という光と影の2つの側面があることに対して、これが正しいという唯一の回答をすることは非常に難しいと感じたためです。

参加した一人ひとりが、自分なりに考え抜いた答えを大切にしてもらいたいという思いも込めています。

これまで、学生と企業を対象にこのプログラムを提供してきました。

学生には、「新潟水俣病の教訓となぜ発生を防げなかったのか」を考えてもらいました。一方、企業の方には、「昭和電工(株)や新潟昭和(株)がどのように地域の声に応えていくとよいのか」という未来志向の問いかけを投げかけました。

この取り組みは、ただ対話を通して学ぶという参加者の意識変容だけで終わるものではありません。この対話を通して、このプログラムに関わる人たち、つまり「新潟水俣病」に関わるステークホルダーの関係性を、そして行動を変容させていくきっかけにしていきたいと考えています。

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おわりに

ワークショップ形式のプログラムの提供は、昨年から始めたばかりです。毎回、試行錯誤を続けながら、ようやく形が見えてきたところです。

あがのがわ環境学舎が進める流域の「もやい直し」に協力する形で、今後もこうした対話の場づくりを継続していきたいと思います。

ぜひ、阿賀野川流域の未来を拓くためにも、全国の皆様のお知恵やお力をお貸しください。今後ともよろしくお願いします。

<参考>
・一般社団法人あがのがわ環境学舎
http://aganogawa.info/top/aboutus/
・阿賀野川え~とこだ!流域通信
http://www.aganogawa.info/

About the author

石本 貴之(新潟・三条市)

滋賀県立大学大学院卒業後、民間調査会社を経て、環境省の環境情報拠点「地球環境パートナーシッププラザ」にてソーシャルビジネス支援等に従事。2014年より、新潟県に移住して、認定NPO法人新潟NPO協会の事務局次長に就任。ワークショップデザイナーとして、行政、企業、NPO等の協働を生み出す対話の場づくりを多く手掛ける。これまでの実績に「お寺で対話する夜」「パブリックコメント・ワークショップ」「これからの教育フューチャーセッション」など。