みんなの場づくり

私設図書館「眺花亭」における場づくり

 2009年1月から両国隅田川沿いに建つマンションの一室で私設図書館「眺花亭」を運営しています。60歳を過ぎても好きなことを仕事にして働きたいという思いと、永年にわたる会社員生活の疲れから、定年を待たずサラリーマン人生にサヨナラです。若い時から喫茶店や本が好きだったのでブックカフェでもやろうかと考え、店舗物件を探しました。谷中、用賀、駒場東大前、深川などを見て回りましたが、どこもテナント料が高いです。儲ける気はなく、一人でのんびりとやるつもりだったのですが、とても生半可な気持ちでは無理だと、思い知らされました。結局、役所や保健所やらをまわり相談して、空き家の実家マンションを利用した私設図書館を開業することに。

 2008年3月に退職。前職のシステムエンジニアのスキルを活かし開業までの作業項目を洗い出し、スケジュールを作成。内装リフォーム、蔵書の引越し、居住のための手続き、喫茶学校トレーニング、什器類購入、個人事業主開業届、帳簿の準備、運営方法検討等々。すべてを一人で対応しました。1か月かけた本棚18本分の蔵書引越しには、さすがに疲れてクタクタ。環境が整ってきたので、営業活動のためコンセプトを検討。図書館としているが、リタイア世代の「オヤジカフェ」はどうだろうと思案する。公共図書館やスポーツジム、ウォーキング以外でリタイアした人が、気軽に立ち寄って話ができる場所を御同輩に提供したい。

 友人、知人、元同僚らに年賀状やe-mailで知らせて、2009年1月13日「眺花亭」なんとか開館です。毎日、掃除、接客、会計と一人でバタバタとする日々が続きました。しかし数か月過ぎた頃、来館者が途絶えます。開店祝いで来てくれたのが一巡したようです。さてお客さんをどうやって呼ぼうかしら。先ずはどんな蔵書があるかを記載したチラシ「眺花亭ご案内」を作成し、知り合いの喫茶店、居酒屋に置いてもらいました。それだけでなく近所や深川近辺を歩き、眺花亭と“友好関係”が築けそうなカフェなどを探し、積極的に顔を出して個人的つながりで配布をお願いする。そことは今もつきあいがあります。

 また知名度を上げるためにホームページを立ち上げ、新規に入荷した本、雑誌、CD、レコードの情報も載せました。さすがインターネットは効果があり、数人がホームページを見て訪ねてくれました。メディアも見ていて、雑誌や単行本に取り上げてもらっています。今のところ、こちらはあまり集客に効果がありませんが。趣味は地域での人脈を広げるのに大いに役立ちました。同じ町内に「両国フォークロアセンター」があります。1970年開業の高田渡や友部正人らが出演した老舗のライブスペースです。昔から日本のフォークやロックが好きで聴いていたので開館の挨拶に早速出向き、町内の数少ないカルチャー仲間としていろいろな話をさせてもらいました。

 それがご縁で近所の江島杉山神社で開催の「隅田川フォークフェスティバル」に協賛し、一箱古本市を開きました。古本を売りながら、眺花亭の宣伝です。古本がらみでは深川資料館通りの「いっぷく」で開催された、一箱古本市をのぞきに行ったのがきっかけで、古本好きの仲間に入れてもらえました。おかげで、この仲間とは一緒に深川資料館通りや森下・のらくろードの一箱古本市に参加し、「眺花亭ご案内」チラシを配ることができ、良かったです。また出版流通に携わっていた古本仲間の一人が、地方小出版の編集者に話を聞く会を企画したので、眺花亭を会場に提供しました。多くの入場者が来館し、感謝、感謝です。

 映画も趣味のひとつです。江東区木場へ引越してきて4年になります。深川は小津安二郎監督の生誕地であり、江東区古石場文化センターが毎年「江東シネマフェスティバル」を開催しています。この映画祭のサポーターを募集していたので、参加しました。1年ほど一緒に活動していると他のサポーターとも顔なじみになり、眺花亭のことを話題にしたこともあります。眺花亭には80型スクリーンとプロジェクターが備えてあり、落語、テレビバラエティ、映画などのDVDを上映し、イベント集客を兼ね仲間内で楽しんでいました。このことに興味を持たれ、映画上映会をサポーター仲間で定期的に開催することに。ありがたい常連客が増えました。

 ホームページと同時に友人、知人、これまでの来館者へメールマガジン「眺花亭たより」の配信を開始です。眺花亭でのイベント案内の他、私のアンテナにひっかかるイベント、映画やライブ、展覧会などの記事を載せています。興味がある記事が載ると、疎遠になっている方からも返信が来て、やり取りをする内久しぶりに、来館していただけることも。

 このところ来館者は月十数名、なかなか20名を超えません。でも特別イベントは別としても、これまでに150名ぐらいの方に来てもらっています。会社の関係とか以前からの知り合いの人もいますが、インターネットやチラシで知り、訪ねてくれた人も少なくないです。それといろいろな形でつながりを持った地域の方々。自分一人で集客活動をしていても限界があります。やはり趣味などを通じて地域の活動に参加し、知り合った人たちと少しづつ信頼関係を築き、眺花亭の良さを知ってもらったことが、来館者の増加に結びついているのでは。日々の眺花亭運営は一人だけで何とか推進できますが、集客を考えるとこれからも地域のつながりを大切にしていきたいと思います。

〇眺花亭のホームページです
http://choka-tei.at.webry.info/
〇動画での眺花亭館内案内です
https://vimeo.com/65212458
〇眺花亭開業にまつわるドタバタ騒動記です
http://www.sanriku-pub.jp/olive204.watanabe.html

About the author

渡辺 信夫(東京・墨田)

2009年1月から両国隅田川沿いに建つマンションの一室で私設図書館「眺花亭」を運営しています。