場と学習の理論

これからの学びを考える基盤となる「遊びから情熱、そして目的へ」[TED]トニー・ワグナー

これからの学びにとって何が大切か? この動画は子どもだけでなく、大人がビジネスにイノベーションを起こすためにも、活動できる市民となるためにも必要な考え方が詰まっています。

ハーバード大学テクノロジー&起業センター初代革新教育フェローのトニー・ワーグナーが語る、これからのイノベーター育成に大切なこと。現代のイノベーターと呼ばれる人が持つ共通点とは何なのでしょうか?

なぜ「お互い様を大事にし、それぞれが持つ強みを持ち寄ること」が必要なのか、考えるヒントとなります! 昨年、エンパブリック社内でも何度も見て、スタッフの議論の基となった動画です。

「遊び、情熱、目的」

トニー・ワグナーはアメリカの教育者で、彼の最大の関心事は「教育は、これからの社会に必要な人材を育てることに、どのように役立つことができるのか?」

日本でも多くの人が、教育にこの問いを持っているのではないか。
現在の日本の教育システムの基盤は明治維新の時に、工業中心の産業社会を前提として、優秀な官僚や多数の工場での働き手を生み出すことを軸に設計された、それは戦後も変わらない。授業をきちんと受け、与えられた問題を自分の力で解く子は、地域の多世代の仲間をつくる子よりも、高い成績が与えられる。

では、これからの時代において「求められる人材」とは何か?
トニーは、それを「イノベーター」とした。社会・経済の環境が変化し、社会構造がどんどん変化する時代において、新しい状況に対応して生きていくには、「イノベーター」の資質が必要だと。

では、どうやったらイノベーターは育てることができるのか。
それを検証するために、トニーは多様なジャンルのイノベーターと呼ばれる人たちにインタビューをし、イノベーターに、影響を与えた教師やメンターがいたのか?を調べていく。そして、そこで名前があがった教師・メンターにもインタビューしていく。

そうして彼が気づいたのは、イノベーターに影響を与えた教師やメンターの人が、全員「自分は学校や組織では、変わり者とされていた」と言うことだ。つまり、学校などの”通常の”やり方から、外れたやり方で生き、その生き方で子どもたちに接していた人たちばかりだったのだ。

ここで、トニーは考える。彼らのやり方と既存の学校のやり方は何が違うのか?
その6つのポイントの一つは「失敗する機会を与える」ことだ。早めに小さな失敗ができるを与え、そこで考えることの大切さを伝えていたのだ。人は失敗から多くを学ぶ。こう書くと当たり前だが、教師や親としては、失敗よりも成功を評価したり、失敗しないような環境を与えたりしてしまいがちだ。しかし、「失敗」は裏返すと「学んで、やりなおす機会」を得るということだ。

子どもや学び手が失敗するリスクがあることは、教師や親にもリスクがあるということだ。だから、失敗を促せる教師は、教師自身がリスクを負って生きている=「通常の組織の中では変わり者」ということになるのだろう。

そして、トニーは、最後に、イノベーターを育てるのに3つの要素があり、その順番が大切だと気づいたことを語る。それが、「遊び、情熱、そして目的」だ。大切なのは、その順番だと。

社会人になると、何かをする時、「目的」が必要となる。「何のために、これをするのか?」「どう役立つのか?」がわからないと動けない。「うちの会社・組織でやる意味があるのか?」「どうして、あなたがそれをしないといけないのか?」そういう問いかけの中に、私たちはいる。教育も、目的が先行しがちだ。「いい学校に入るため」「いい点数を取るため」。
しかし、トニーは「目的」は最後だという

最初にくるのは「遊び」まず遊びを促す。それは、自分の内発的な動機から、思うように動き、あれこれやってみて、自分の楽しいと思うことを探索するプロセスを提供することでもある。そして、遊びの中で、自分が興味あること、関心あることが見つかったら、それを深く探求する。とことんやってみる。そのエネルギーが「情熱」の源泉になる。そして、内発的な情熱があるから、失敗してもあきらめないで考え続け、繰り返し、たくさん学んだ子どもに、教師やメンターが「ここで得たことを私にではなく、社会に還元したらいい」と伝えた時に、人生の中で大切にし続ける「目的」が生まれる

合理的であることは、時に、目的達成のために必要なことの範囲内にとどまってしまいがちだ。
最初に定めた目的を定めるのではなく、まず遊ぶ。自分の動機を大切にして色々と探索し、そこで必要性に気づき、情熱を持てたことを、どう成果につなげていけるのか。
それは、これからのソーシャル・イノベーションに本当に不可欠なことだ。

この動画「遊び、情熱、目的」は、2014年のすぎなみ大人塾の「アソビノベーション」のプログラムを実践している中で出会い、プログラムの意義を改めて深く考えるきっかけとなった。
この現場での実践で考えたことについては、ばづくーるコミュニティで、みなさんと話し合っていきたいと思っている。

About the author

広石 拓司 (empublic)

エンパブリック代表
社会起業家の育成に携わる中で、新しいことを始めるには、多様な人たちが出会い、仲間となる場づくりが大切だと考え、2008年エンパブリック創業。地域やビジネスの現場で、本当に使える場づくりの技術を、多くの人たちが使いこなせるプラットフォームづくりに取り組む。慶應義塾大学総合政策学部、立教大学経営学部・大学院21世紀社会デザイン研究科の非常勤講師なども務める。

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