みんなの場づくり

住むまちから暮らすまちへ~共に学ぶ場から再開発地域にコミュニティをつくる

再開発により急速に人口が増え、高層マンションなどに住む、地域づくりとの接点が少ない新住民が増えた中で、どのように住民を巻き込んだ地域づくりを進めるのか。
福岡での取り組みをご紹介いただきます!

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はじめまして!NPO法人ドネルモの山内と申します。ドネルモは、人々と社会の間に、新しい関係を見つけ出すことで、「あったらいいな」をかたちにしようとする人々を支援するNPOです。福岡を拠点とし、地域の担い手づくりなどのコミュニティデザインを中心に、アマチュア表現活動を支援する文化事業や韓国の市民活動(ソンミサン・マウルなど)の調査研究に取組んでいます。

ここでは、私たちドネルモが、福岡市と一緒に取組んでいる「地域デザインの学校」プロジェクトをご紹介させていただきます。ドネルモ_2

■「地域デザインの学校」とは?

これまで地域活動に馴染みの薄かった人々が、自分なりの目線で地域に関わりながら、地域内外の活動の担い手とつながり、地域活動を豊かにしていく。地域デザインの学校は、そんな営みが生まれるようなプログラムをドネルモと福岡市が共同開発・実践し、具体的なモデルケースをつくる事業です。H25年度にドネルモが福岡市に提案、採択され、H26年度からスタートしました。

■プロジェクトの背景

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背景にあるのは、こんなデータです。福岡市の調査によれば、地域活動を大切だと考える市民は9割を越えます。その一方、実際に地域活動に関わっている方は3割程度です。その3割は自治会等を中心とする校区毎の組織((福岡では自治協議会という組織になっています)ですが、近年は担い手不足や参加者の固定化が問題となっています。そこで、従来の地域関係者とは異なる層が地域に関わるきっかけが求められています。

これまでにも福岡市は地域コミュニティの基盤強化事業に努めていますが、自治協議会に関わりのない層へのアプローチが弱いのが現状です。一方ドネルモは、超高齢社会に対応した地域づくりの事業に取組む中で、従来の地縁組織だけでは対応が難しい多様な地域のニーズに注目し、新しい層にアプローチするノウハウを培ってきました。そこで、既存の地縁組織とネットワークを持つ福岡市と、新しい層を掘り起すドネルモが共働することで、これまでに地域活動に関わりの薄い層を掘り起こし、地域内外の活動者とつながることで、より豊かな地域活動のあり方を模索することとなったのです。

■プロジェクトの概要

地域デザインの学校は、3つのステップがあります。ステップ1では地域へのヒアリング調査と人の掘り起こし、そして受講者の応募。ステップ2では講座の実施。そしてステップ3では、講座修了後の受講生たちの活動を支援します。
こうした設計にしているのは、次のような問題意識からです。ドネルモでは、自治会を中心とした地縁組織の動員によって集った人々を対象に、ワークショップをすることもあります。ただ、そのクオリティをどれだけ高めても、1回限りの関係では、新しい活動が生まれ難いことを痛感してきました。そこで、①事前調査&新しい層への呼びかけ②講座③アフターフォローを1つのパッケージとして実施する必要性を訴えたのです。

【ステップ1】 地域へのヒアリング調査と人の掘り起こし

初年度となる今年は、福岡市東区千早校区を中心に実施することとなりました。千早は、このご時世に珍しく再開発が進む地域で、住居用マンションが相次いで新築され、人口も右肩上がり、子育て世代が大きな割合を占める地域です。
ステップ1では、まず千早の自治会関係者をはじめ、子育てサロンや高齢者へのボランティア関係者、小学校や保育園関係者、更にはカフェの店長など、30名弱、幅広い層へのヒアリングを実施、千早の状況を捉えることにつとめました。子どもが多いにも関わらず、地域のつながりが希薄との声が多い一方で、地道に千早で活動をしている人の問題意識やニーズも聞くことができました。こうしたヒアリングでの気づきは、ステップ2の講座で受講生に共有されます。
講座受講の募集も、広報戦略をドネルモが担当、チラシを千早校区で全戸配布した他、新聞やインターネット、とくにSNSを通じてPR。その結果、定員を越える25名の受講者が集いました。そのうち、これまでの地域活動に馴染みの薄い方が9割です。年齢層は30代〜40代中心、20歳の女子学生から78歳の高齢者まで。また千早校区を中心に、近隣校区からも受講希望が多く、実際には6校区から集いました。

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【ステップ2】 講座の実施

講座は9月末から翌1月までの期間で、全6回(+補講)実施しました。会場は小学校の図書室、素敵な空間です。講座当日は、午前に始まり、みんなで一緒に食べるお昼ごはんを挟んで、午後3時まで。「お互いの気づきを持ちより、話し合う」ことをコンセプトに、ヒアリングや企画の立案&練り上げなどのワークを重ねました。またお昼休みに、面白い活動をしている人をゲストに招いてミニトークをしたり、自治会など地域の方との懇親会など、受講生が地域内外の人々とつながる場づくりも進めました。
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講座各回をレポートにまとめています。ぜひご覧ください!
 □入学式:「住むまち」から「暮らすまち」へ 講師 広石さん(エンパブリック)
 □第1回:つながりをつくる!〜千早を知る/ご近所インタビュー講座〜
 □第2回:気づきを持ちよる!〜ご近所インタビューの実践&ふりかえり〜
 □第3回:活動のつくりかたを知る!〜企画をつくる上で大切なこと〜
 □第4回:企画を更に深める!
 ~チーム別に企画の練り上げ(補講)~
 □第5回・卒業式:活動アイデアの発表&全体ふりかえり
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【ステップ3】アフターフォロー

この一連の講座を通じて4チームが立ち上がり、それぞれに企画を立案、具体化に向けて動き出しました。千早で「暮らす」ための情報を扱う地域メディアをつくる企画、駅前に移設される市民センターの有効活用を考え、提案していく企画など、それぞれに打合せを重ね、できるところからはじめようとしています。ドネルモは、そうしたスタートアップの相談に応じながら、活動をフォローしています。

■「地域デザインの学校」のこれから

地域デザインの学校は、次年度の継続実施も決定、第2期、第3期と進めていきます。そこでは、第1〜3期の受講生や講座に関わった人々が相互に交流する場も設け、更なるネットワーク化を目指します。

今回、講座のスタート時(入学式)に、広石さんに講師としてお話いただきました。その際の「住むまちから暮らすまちへ」というマインドセットが受講生にばっちりハマっています(講座から生まれた企画は、ほぼ全てが「千早で暮らす」ことをビジョンに掲げていました)。また受講生のみなさんと全体ふりかえりをした際、「地域活性化に市民が関われるんだ…とびっくりした」とか「どうせ私の意見なんて…という型にはまった考え方はもうやめます」といったコメントも聞かれました。

このように、単に「勉強になりました!」ではなく、自分なりの目線で地域に関わっていこうとする人々の営みを生み出しながら、同時に、そうした人々相互のネットワークをつくっていくことを、地域デザインの学校は目指しています。その試みは、まだまだスタートしたばかり。

これから、ばづくーるでもみなさんと気づきを共有しながら、面白くしていきたいと思っています!

 

About the author

山内 泰(福岡市)

「人と社会のあいだに、新しい関係を見つけ出すことで、あったらいいなをかたちにする」文化的な社会を目指して。福岡を拠点に、コミュニティデザインや文化事業に取り組むNPO法人ドネルモの代表理事。九州大学芸術工学府修了(芸術工学博士、専門は美学・芸術学)。福岡歯科大学非常勤講師など。「ドネルモ」はフランス語で「言葉を与える」の意。わかりやすい「正解」を見出せない昨今の状況に対して、従来とは違った観点からレスポンスする(言葉を与える)アプローチで、多様なモデルを生み出すべく、様々なプロジェクトに取り組んでいる。

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