学びの技法

成功事例から、何を、どう学べばいいのか?

移転可能な形での地域事業のケース分析を学ぶ

1120()長野県庁empublic代表の広石拓司が、「移転可能な形での地域事業のケース分析の手法」の講師をしました。

長野県職員の木下巨一さんのまとめを掲載します。

「その人のすごさ」か「移転可能な知恵」か

広石さんは「葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝町を引用しながら話を進めてくれました。 1千万円を超えて稼ぎ出すおばあちゃんの存在を「すごいね」で済ませたり、「自分たちも葉っぱを売ってみよう」と結果だけ見たり、仕組みづくりを行った横石知二さんの属人性に着目することではだめです。
 移転可能な分析とは、同じことを再現することではなく、その先行事例から、試行錯誤を繰り返しながら「背景・状況」「判断」「行動」「結果」にいたる「つながり=ストーリー」を学ぶことから始めます。いろどりの取組みも成功したことには運という要素が多分にあります。そして横石さん自身も最初から成功するか失敗するのかわからないままに動いていたはずです。決して最初から成功者であったわけではありません。
 しかし行動のプロセスの中で、今がチャンスだと判断するポイントがあったはずです。

すべての成功は何らかの投資的行動から生まれる

一般的に自治体財政の支出は、リスクを極力つぶした融資的な視点で行われます。しかし成功事例というものは、リスクを前提に投資的な行動の結果生まれます。
 ただし投資的な行動を行う際に大事なことは次の4つのポイントです。
 行動する人が、中長期的なトレンドとして、行きつく先のゴールすなわちビジョンを持っていること
 自分たちが持っている資本(財務・製造・知的・人的・社会関係、自然の6つの資本)を自覚していること
 試行錯誤を繰り返しながらも、現状から未来に向けて、何か進んでいるということを見取れているか判断できていること
 いいことなのに実現できていないのはなぜか、常に問いを持ちながら取り組んでいること

いろどりの横石さんの行動を分析してみる

このことをいろどりの取組みを支えた横石知二さんの行動と重ねてみると、次のようなプロセスが見えてきます。
 まず横石さんは、地域の中では力があるけれど潜在化していた女性たちの力に期待します。
 次に料亭の「つまもの」という既存の作物でないものに着目します。
 そして、自分たちが取ってきた「つまもの」が料亭の料理に使われているという入口から出口までのストーリーが見えていることから、周りの皆の反対にも負けずやり続けます。
 取組みは横石さんと仲の良かった4人のなかのいいおばちゃんたちという社会関係資本を活かして取り組み始めました。
 最初は全く売れなかったにもかかわらず、広石さんには、料亭で自分たちの「つまもの」が使われているという成功イメージがあり、そのイメージを持ち続けていることから、取組みをあきらめず、なぜ売れないのかという問いを持ち続け、その結果、自分たちがマーケットを知らなかったという原因に行きつきます。
 そこで横石さんはマーケットとしての料亭に聞きに行きますが追い返されます。けれどもあきらめずに行動するうちに、お客には話してくれるということを知り、毎月のようにいろいろな料亭に自腹で客として出かけ、仲居さんに「つまもの」について話を聞きます。
 そこでわかったのは、「つまもの」は、一つひとつのつまものが見栄えが良くてもだめで、その色、形、大きさなどが均一で、一定のロットが確保できないと料亭側は買わないというマーケットの事情です。
 以上のような「行動」と「結果」に至る「プロセス」の中で何度も訪れた「別れめ」で「あきらめず」に「判断した」積み重ねの結果で成功に至ったということを学び取るのが分析の手法です。

現場の取組みの伴走者としての県の役割

中山間地など現場の取組みの活性化に、支え手として、これから県が関わっていくべき姿勢は「伴走者」です。これまでのように補助メニューを用意するだけではだめです。
 投資的行動にはリスクが伴いますが、そういうリスクにどう対処していけばよいのかという「リスクマネジメント」です。つまりともに伴走しながら、現場の人たちとリスクを共有し、ともに気づいていくという姿勢が求められます。

具体的な分析の側面

具体的な現場でのヒアリングを進める際にポイントとなる側面は、「対象者」「市場」「事業、製品、サービスの質」「生産性」「理由・動機」「ガバナンス」の6つです。

 対象者
 特に大事なのは現場キーマンの持つ力量のうち「ケイパビリティ」です。ケイパビリティとは、単なる知識や技術だけでなく、「能力」「環境へのアクセス」「意欲/あきらめ」などの側面を含む言葉で、活躍できる状況につなげられる力を指します。

 市場
 大分県の湯布院は、別府に対抗するために、団体客を中心マーケットとしていた別府に対して個人をターゲットとし、成功しました。どのような市場を選択したのか、という視点も大事です。

 事業、製品、サービスの質
 いろどりの場合は、料亭の人たちにとって魅力ある「つまもの」とは何かを探って商品化した取組みです。つまり顧客や担い手など誰にとって、どのような質を大切にしたいのかという質をどのように定義したという点が大事なポイントです。
 それから「価格」はコミュニケーションです。単にその商品が高いか安いかではなくその価格でなぜ売買するのか、という結果に至る、生産者と消費者のコミュニケーションが大事です。

 生産性
 価値を再現するノウハウ、仕組み、どのように資源を確保するのか、どのように担い手を確保するのか、担い手をどのように育成するのか、育成した人々が前の製品の質を再現できるためのポイント、供給や工法のポイントなども大事です。

 理由・動機
 試行錯誤しながらもやめない理由、続けようとする動機、周りの人たちから見てその人が行う理由の納得性、その取り組みに共感を呼ぶ理由、そして誰が共感しているのかなども大事です。

 ガバナンス
 ネット通販大手のアマゾンは、仕組みを立ち上げてから15年間、取引高は拡大していきますが、赤字が続いていました。それでも継続したのは収益よりも取り扱い高を増やしていくことを目的としていました。経営者はそういう視点で組織や活動のガバナンスを進めていました。そういう取組みを進める人たちのガバナンスも、聞き取りの大事なポイントです。

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