みんなの場づくり

年齢、性別、経験、立場の違う人たちがともに試行錯誤できる対話の場を

“あたりまえ”をひっくり返す

書籍のデザインをしている佐野佳子と申します。
2015年2月に、東京・杉並にあるアートスペース「あなたの公-差-転」にて、「対話の実験室」を始めました。そこでは毎回テーマを決め、ワークショップを織り込みながら10人くらいで2~3時間対話します。年齢、性別、経験、立場の違う人たちが、互いを尊重しながら対話するためにはどうしたらいいか試行錯誤しようという意味を込めて実験室と名づけました。失敗を避けず、むしろうまくいかなかったことから学ぼうという考え方です。

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対話のない社会

わたしが生まれ育った村社会では、みなと同じであればよく、自分の考えは表に出さないほうが安全でした。思っているだけで行動に移さなかったわたしが、なぜ「対話の実験室」を始めたのか。きっかけは2011年3月に起きた震災と原発事故でした。様々な意見がわき起こり、これで根源的な話へ向かうと期待しました。しかし、勝ちか負けか、正しいか正しくないかに陥り、本質的な問いに近づいたように見えて、また日常へ押し戻されてしまいました。このようなやり方では、また同じことを繰り返してしまう。いったい何が必要なのか。様々な本を読みあさり、たどり着いたのが「対話」という方法でした。

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知らないものはわからない

対話とは、経験や立場の違う人々が対等な立場で発言し、相手の言う意味をよく聞いて考えを深めることです。必ず結論を出す必要はなく、自分の意見は変わってもいい。互いを尊重しともに考え作用しあう。しかも何を言っても攻撃されることなく、安心して話すことができます。このような態度があれば、常軌を逸したアイデアも出しやすく、それが様々な考えに洗われて思いがけないひらめきが生まれる可能性があります。しかし逆の場合、声が大きい人のほかは口をつぐんでしまい、自分で考えるのを止め、誰かの考えを借りるようになるでしょう。なかったことにした問題はいつまでも続いてしまいます。そこに新しい人が入ってきたとしても、彼にとって黙って従うことがあたりまえになるかもしれません。

対話を阻む思考習慣

立場によって意見が変わる
声が大きい人に流される
敵か味方かになってしまう
意見が違うと、否定されたと感じる
対立や違いに耐えられない
人格攻撃で黙らせる/黙ってしまう
意見が合わない人とは交わらない
意見が違うのに同調する
その場で言わず陰で言う
言葉の意味を確かめ合わない
結果ありきで、見かけだけの議論をする

このような対話を阻む習慣があるなかで、どうやって対話の場を持つのか。ひとりで始める難しさに躊躇していたところに、アートプロジェクト「dislocate(ディスロケイト)」の拠点ができることを知りました。それが「対話の実験室」を始めた「あなたの公-差-転」でした。

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そこに「あなたの公-差-転」があったから

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dislocateは、アイデアを出し合い、行動に移す場であり、また互いに認め合い、時には批判し合い、共通性や差異を見出し、お互いに繋がっていく一種のパブリック・スペース(公共空間)です。単なるアートプロジェクトや、まちづくりではなく、いわゆる“アクティビズム”でもなく、これまでの“常識”に揺さぶりをかけ、他者を巻き込んで展開していく場です。

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そこにはヒエラルキーはありません。命令や許可を求めてもありません。提案し、相談して、行動に移すという対等な関係あります。それは、わたしが考える対話の態度と同じでした。ここでなら仲間の力を借りながらやることができる。そう確信し、「あなたの公-差-転」が正式にオープンする前に「対話の実験室」を始めてしまいました。

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みんながなんとなく言わないこと

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「あなたの公-差-転」は、ただ見るだけのアートスペースではなく、誰かに提供されたスペースでもなく、あなたが自分のものとして活用できる、様々な人と一緒に作れるスペースです。公共空間としていつでも誰でも入れる場所、自分と違うものと出会う場所、何かをこれから変えていく刺激になる場所です。図書室、映画館、茶室、ワークショップ・スペースなど様々な機能を持つスペースですが、その可能性を実現するために「あなた」が必要です!

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「あなたの公-差-転」がオープンして半年、ビジネスの枠内では限界を感じている人も集まってきています。ビジネスの場では儲けにつながらないものを扱えないですが、アートならその枠を超えられるかもしれない。みんながなんとなく言わないことのなかに手がかりが隠されているとわたしは考えます。

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「仕方がない」の先へ

対話の実験室は2015年9月に第6回を迎えました。1回目からお金をテーマの中心にして対話しています。この問いは、わたしの疑問からはじまっています。現在の労働が、お金という数値を集めることが先にあり、いらないものをいるかのように見せかけて売るゲームに見えること。そのゲームのために人生の時間を切り売りしなければならないこと。はたしてこれは続けていける仕組みなのだろうか。ほかにアイデアはないのだろうか。

身近なお金の話ではありますが、毎回うまくいくわけではありません。話す人と聞き役に分かれてしまい、対話にならない場合もあります。そんなとき何かのせいにしていても変えることはできないと学びました。自分のなかにある対話を阻む思考習慣を認識し、何が足りないのか仮説を立て、仲間からワークショップのアイデアをもらったり、進行の手助けを協力し合いながら試行錯誤しています。

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ヒントはモヤモヤのなかにある

文明、科学、システムがどんどん複雑化し、仕方がないではすまない問題が生まれています。しかしどんなに大きな問題でも、必ず自分の手の届くところからはじまっています。家庭や学校、職場などで何か問題が起きたとき、対話の態度を思い出せれば必ず何かみつかるはず。Let’s モヤモヤ!

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〇dislocate http://www.dis-locate.net/

10/15~12/20に、働くことについての対話シリーズ「働いていますか? Is it working」があります。直近の「対話の実験室」は、10月18日(日)14時から!佐野さんと、思考習慣に向き合う対話の場に参加してみませんか?

〇あなたの交-差-転 http://kosaten.org/

About the author

佐野 佳子(東京・杉並区)

1972年新潟県生まれ。グラフィックデザイナー。マルプデザイン所属。dislocate メンバー。対話や議論の深まりを阻む思考習慣に興味を持ち、2015年2月「対話の実験室」を始める。様々な対話の場で鍛錬中。