みんなの場づくり

ナリワイ起業から鶴岡の女性が動き出す

みなさん、はじめまして、山形県鶴岡市に住んでいる井東敬子と申します。昨年から、仲間と一緒に「鶴岡ナリワイプロジェクト」をはじめました。
私たちの考える「ナリワイ」とは、自分の好きなこと・得意なことで小商いを始めることです。具体的には、次の2つをイメージしています。

  1. 身の回りの「モヤモヤ」や「ちょっと困った」を解決する小さなビジネス
  2. ほっておけば、なくなってしまう地域の伝統文化を守る小さなビジネス

プロジェクトでは、「ナリワイ」という小商いする人を地域に増やすことで、行政やNPOだけでは解決が困難な地域課題を、他人まかせではなく、自分たちで解決しようとする自治精神あふれる人を育てることを目的にしています。
そこから、参加した女性たちが、「本当にやりたかったこと」を見つけ、行動する。そして、「やればできる!」「動くのは楽しいっ!」というムーブメントを創ります。

伝統文化が守られている城下町鶴岡で起業を女性たちに広げたい!

東京から新幹線と在来特急を乗り継いで4時間強。もはや青森より移動時間がかかる鶴岡は、なかなか来れない桃源郷です。遠いからこそ、素晴らし文化が残っています。今でも山伏が修業を続ける出羽三山。この地でしか食べることができない在来作物も50種類を超えます。また、庄内藩のお殿様の子孫がご顕在という由緒正しき城下町です。
5年前に、移住してきた私が感じたのは、社会の表舞台に出てくるのは男性であること。封建的なところが色濃く残っている地域だということ。これは、良い悪いと評価するものではなく、歴史を振り返るとそういう地域なのだと理解し、受け入れることだと思っています。3世代同居率が高く、母親もほとんど働いています。

この地では、「『働く=雇用』しかない」・「起業は特別な人がやるもの」との思い込みが強いと感じました。毎年、年度末になると「4月からの仕事決まっていないんだ~」と契約更新が話題になります。毎年同じ時期に、自分将来が自分で決められない不安定な状態に置かれるにもかかわらず、その状況をあまんじて受け入れる。地域全体があきらめムードで、状況は、自分たちで変えられることを忘れているように感じました。私は、そういうムードや固定観念に風穴を開けたい。私たちの暮らしは、中央政府が決めるものでないし、困り事は行政に陳情して終わりではない。自分が欲しい未来は、自分でつくるしかない。そう気づいて一緒に動く仲間が必要なんです。
「自分の好きなこと✕世の中にいいこと」でナリワイ起業するプロセスを通して、女性たちが社会に目を向け、「暮らしやコミュニティーは、自分たちの手で創っていくもの」と思える人を増やしたいと思っています。

ナリワイ起業を始めてわかった可能性と課題

鶴岡市が、2012年度より3年間、厚生労働省の「実践型地域雇用創造事業」の委託を受IMGP0950け、雇用を増やすことを目的に、鶴岡食文化産業創造センターを立ち上げました。その中の事業として「ナリワイづくり工房@鶴岡」を実施し、ナリワイ起業する人を募り、9ヶ月間トライし、2014年度は8名の女性が起業しました。鶴岡の女性も、特に20~40代は起業に興味があることもわかりました。
布ナプキンの開発•販売、針仕事、フラワーアレンジメントなど、それぞれの事業は小規模のもので、経済効果は大きくありませんが、地域内の“小銭と笑顔”まわり、毎日なんか楽しい!に変わりました。小さな手仕事を人に教える働く母を見て、小学生のお子さんが「お母さんカッコイイ!」と言っていました。子どもたちにとっても、働き方の多様性を伝えるキャリア教育になると確信しました。
同時に、課題も見えてきました。意欲と、ポテンシャルはあるのですが、地域で求められているマーケティング視点、社会的視点、取り組みを拡げる発信力(広報力)、趣味に終わらせず継続事業に育てられる事業計画立案力(財務・会計・経営能力)、お金を請求する営業意欲が、不足している。とりわけ共通するのが、 地道に取り組みを進めていく事務局能力が不足しているのです。

昨年度の経験を踏まえ、この仕組を更に発展させたいと、鶴岡市に働きかけるとともに、公益財団法人トヨタ財団様の国内助成事業に申請し、ともに財源が確保されることになり、仲間約15名と当プロジェクトを実施することになりました。

どんなに素晴らしい講師の話を聞いても、行動しなければ、地域は変わりません。一人ひとりが、小さくチャレンジし、その経験を持ち寄り、月1回、対話型ミーティングを行います。良かったことはマネし、仲間の失敗から学ぶ。それをくり返して、1年後に小さくナリワイ起業を目指しています。

10年後の鶴岡、こうなっているといいな
  • 少なくとも、ナリワイ起業した人の家族や友人が(子育て中の人も、ひとり暮らしの老人も、障害者も、認知症の人も)、孤立しないで自分らしくいきいきと暮らしている。
  • 仕事=定職の打破。複数の仕事を掛け持ちしている働き方があたり前になっている。今は、わかり者という視線を浴びる。
  • ナリワイ拠点6軒ができている(住み開きをイメージ)
  • 僻地(山里、海辺、離島)など、過疎が著しくビジネスにおいても条件不利地とされている地域にも人が住み着き、複数の仕事を兼ね備えて暮らす人たちが出てくる。

おわりに

裏日本と言われた鶴岡で、これがうまく行けば、日本のどこでもできるはず。と思って、日々楽しく取り組んでおります。なんたって、ナリワイはやれ ばやるほど、仲間が増え、ぬくもりのある人間関係ができ、手作りの丁寧な暮らしが楽しめるんですから。
ぜひ、全国のみなさんとも意見交換しながら、進めていきたいと思っています。

鶴岡ナリワイプロジェクト

About the author

井東 敬子(山形・鶴岡)

地域コーディネーター・インタープリター
旅行業10年、自然体験型の環境教育15年の経験をベースに、人・組織・自然をつなぎ、新しいことをうみだす実践者。2011年、家族で山形県鶴岡市に移住。鶴岡食文化産業創造センターのアドバイザー歴任中に立ち上げたプロジェクトを発展させ、2015年春、鶴岡ナリワイプロジェクトを始動。地域に「好きなこと」×「世の中に役立つこと」で小さく起業するナリワイ起業家を増やすことで、他人任せではなく、自分からやろう!という人を増やすムーブメントづくりに奔走中。
リードクライム株式会社取締役、山形県上山市出身、一児の母、山伏の妻